日本のホームレス問題:現状と課題
近年、日本のホームレス人口は減少傾向にあるものの、依然として深刻な社会問題として存在しています。厚生労働省の調査によると、2024年1月時点の全国のホームレス数は2,820人と、2003年の25,296人に比べて約88%減少しました 1。しかし、この数字は路上で生活する人に限定されており、ネットカフェや簡易宿泊所を転々とする「見えないホームレス」は含まれていません 1。東京都の調査では、都内だけで毎晩約4,000人がネットカフェで宿泊していると推定されており 1、実態は統計よりも深刻である可能性があります。
ホームレス人口の推移と特徴
| 調査年 | 人数 | 増加率 |
|---|---|---|
| 2003年 | 25,296人 | – |
| 2022年 | 3,926人 | -84.6% |
| 2023年 | 3,448人 | -12.2% |
| 2024年 | 2,820人 | -18.2% |
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上記のように、ホームレス人口は減少傾向にありますが、近年はその減少幅が縮小しています。また、ホームレスの高齢化も深刻化しており、平均年齢は63.6歳に達し、65歳以上の高齢者が全体の54.4%を占めています 1。路上生活期間も長期化する傾向があり、5年以上路上生活を続ける人は59.1%、10年以上の人は40%にものぼります 1。高齢化に伴い、医療や介護のニーズが高まっているにもかかわらず、路上生活では健康状態を維持することが難しく、適切な医療を受けることも困難です。さらに、社会的な孤立が深まり、生活の再建がより困難になるという悪循環に陥りやすくなっています 3。
ホームレス問題の背景
ホームレス問題の背景には、様々な要因が複雑に絡み合っています。主な要因としては、以下の点が挙げられます。
- 経済状況の悪化: 失業や低賃金、不安定雇用などにより、住居を失う人が増加しています。特に、非正規雇用の増加や、コロナ禍による経済の落ち込みは、ホームレス状態に陥るリスクを高める要因となっています 4。
- 社会福祉制度の不備: 生活保護の利用手続きの煩雑さや、制度へのアクセスが困難な状況などが、ホームレス状態からの脱却を阻んでいます。生活保護制度の利用をためらう人も多く、必要な支援を受けられないまま路上生活を続けるケースも少なくありません 5。
- 精神疾患: 精神疾患を抱えている人が、社会的な支援を受けられずにホームレス状態に陥るケースがあります。精神疾患は、就労や人間関係の維持を困難にし、社会生活を送る上で大きな障壁となります 6。
- 家族関係の崩壊: 家庭内暴力や家族との不和などにより、家を出ざるを得なくなる人がいます。家族との関係が断絶してしまうと、経済的な支援や精神的な支えを失い、ホームレス状態に陥りやすくなります 7。
ホームレスゼロに向けた取り組み
政府は、「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法」に基づき、ホームレスの自立支援に向けた様々な取り組みを行っています。主な政策としては、以下の点が挙げられます。
- ホームレス自立支援事業: 就労支援、宿泊場所の提供、生活相談など、ホームレスの自立を支援するための事業を実施しています 5。具体的には、ホームレス状態の人に対し、巡回相談による相談や指導、一時的な宿泊場所の提供、就労に向けた準備支援、生活困窮者自立支援制度の利用支援などを行っています 8。
- 生活保護の適用: ホームレス状態にある人でも、要件を満たせば生活保護を受けることができます 9。生活保護は、最低限度の生活を保障するための制度であり、住居費、食費、医療費などが支給されます。
- 生活困窮者自立支援法: 経済的な困窮や、住居の確保が困難な人に対して、相談支援や就労支援などを行っています 8。この法律は、生活保護に至る前の段階で、困窮者を支援することで、自立を促すことを目的としています。
近年では、新型コロナウイルス感染症の拡大がホームレス状態に影響を与えていることも指摘されています。政府は、感染拡大防止の観点から、ホームレスに対する相談支援や、シェルターにおける感染対策などを強化しています 5。
ホームレス支援団体・NPOの活動
政府の取り組みと並行して、民間団体やNPOもホームレス支援に積極的に取り組んでいます。これらの団体は、それぞれの専門性や地域特性を活かし、多様な支援活動を行っています。主な活動内容は以下の通りです。
| 支援の種類 | 説明 | 提供団体例 |
|---|---|---|
| 炊き出し | 食料や生活必需品の提供 | 多くの支援団体 |
| 巡回相談 | 路上生活者の状況把握や相談対応 | 特定非営利活動法人 てんし |
| シェルターの運営 | 宿泊場所の提供 | 認定NPO法人 抱樸 |
| 就労支援 | 就職活動のサポートや、仕事の紹介 | NPO法人Homedoor |
| 伴走型支援 | 長期的な寄り添いを通じた、包括的な支援 | 特定非営利活動法人 ホームレス支援全国ネットワーク |
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「伴走型支援」は、ホームレス状態の人が抱える様々な問題に寄り添い、長期的な視点で自立を支援する活動です。この支援では、単に物質的な援助を行うだけでなく、心のケアや社会参加の促進など、多岐にわたるサポートを提供することで、ホームレス状態からの脱却と、その後の安定した生活の維持を目指します 10。
ホームレス支援の課題
ホームレス支援には、依然として多くの課題が残されています。
- 支援の長期化: 高齢化や長期化が進む中、長期的な支援体制の構築が求められています 3。特に、高齢のホームレスは、体力や気力の低下、健康問題の悪化などにより、自立が困難なケースが多く、長期的な支援が必要となります。
- 精神疾患への対応: 精神疾患を抱えるホームレスへの専門的な支援体制が不足しています 10。精神疾患の治療には、医療機関との連携や、専門的な知識を持った支援者が必要となりますが、現状では十分な体制が整っていないのが現状です。
- 社会的な偏見: ホームレスに対する偏見や差別意識を解消するための啓発活動が必要です 16。偏見や差別は、ホームレスの人が社会参加する上で大きな障壁となり、自立を阻む要因となります。
- 資金不足: 支援団体の多くは資金不足に悩まされており、活動の継続が困難な状況です 10。安定した活動を行うためには、資金調達の方法を多様化し、継続的な支援体制を構築する必要があります。
- 支援へのアクセスの難しさ: ホームレス状態にある人の中には、支援の存在を知らない人や、支援を受けることに抵抗がある人もいます。また、支援を受けるためには、シェルターへの入所など、一定の条件を満たす必要があり、その条件が障壁となるケースもあります 17。例えば、家族やペットと離れなければならないことや、規則の厳しい集団生活に馴染めないことなどが、支援へのアクセスを阻む要因となっています。
海外の取り組み事例
海外では、日本とは異なる視点からのホームレス対策が進められています。例えば、フィンランドでは「ハウジングファースト」と呼ばれるアプローチを採用し、ホームレス状態の人にまず住居を提供することで、自立を促す取り組みを行っています。このアプローチでは、住居の確保を最優先事項とし、その上で就労支援や生活指導などを行うことで、ホームレス状態からの脱却を支援します 18。
また、アメリカでは、ホームレス状態にある人々のデータを収集し、現状を“見える化”することで、一人ひとりの状況に応じた支援を行う「ビルト・フォー・ゼロ」運動が展開されています 19。この運動では、ホームレス状態にある人の名前、年齢、家族構成、ホームレス歴などの情報を収集し、データベース化することで、支援の効率化を図っています。
これらの事例は、日本のホームレス対策にも参考になる点が多いと考えられます。特に、「ハウジングファースト」は、近年注目されているアプローチであり、日本でも導入に向けた動きが見られます。しかし、日本の住宅政策や社会福祉制度との整合性など、検討すべき課題も多く、導入には慎重な議論が必要です 18。
ホームレス問題解決に向けた新たな視点
従来のホームレス対策に加えて、新たな視点からの取り組みも必要とされています。
- 予防対策の強化: ホームレス状態に陥ることを予防するため、生活困窮者への支援や、精神疾患の早期発見・治療などの取り組みが重要です 20。特に、若年層のホームレス増加を防ぐためには、教育機関や福祉機関との連携を強化し、早期の段階から支援を行う必要があります。
- 社会参加の促進: ホームレスの人が社会参加できるよう、就労支援や地域活動への参加促進などの取り組みが求められます 21。社会参加は、ホームレスの人が孤立から脱却し、自信や自尊心を取り戻す上で重要な役割を果たします。
- 包括的な支援体制の構築: 関係機関が連携し、医療、福祉、就労など、多岐にわたるニーズに対応できる包括的な支援体制を構築する必要があります 22。ホームレス状態にある人は、様々な問題を抱えていることが多く、それぞれの状況に応じたきめ細やかな支援が必要です。
世論とメディア報道
ホームレス問題に対する世論は、必ずしも好意的ではありません。内閣府の世論調査によると、ホームレス問題に関心があると回答した人は約6割と、他の社会問題と比べて低い数値となっています 23。また、ホームレスに対して「怖い」「汚い」といったイメージを持つ人も少なくなく、偏見や差別意識を持つ人もいます。このような世論は、ホームレス問題の解決を阻む要因となっています 23。
メディア報道も、ホームレスの実態を正確に伝えていないケースがあり、偏見を助長する可能性も懸念されています 24。センセーショナルな報道や、ステレオタイプなイメージを強調する報道は、ホームレスに対する誤解を生み、差別意識を強める可能性があります。ホームレス問題に対する正しい理解を促進するため、メディアは正確な情報発信に努める必要があります。
社会全体への影響
ホームレス問題は、社会全体に様々な影響を及ぼします。
- 治安の悪化: ホームレスの増加は、犯罪の発生率増加や、地域住民の不安感につながる可能性があります 25。路上生活者が多く集まる地域では、窃盗や暴行などの犯罪が発生しやすくなる傾向があり、地域住民の生活の安全を脅かす可能性があります。
- 衛生問題: 路上生活者の増加は、ゴミ問題や衛生問題を引き起こす可能性があります 1。路上生活では、トイレや入浴などの衛生設備を利用することが難しく、健康問題や感染症のリスクが高まります。また、ゴミの不法投棄などにより、地域の環境が悪化する可能性もあります。
- 経済的な損失: ホームレス状態にある人が増加すると、医療費や生活保護費などの社会保障費の増加につながります 25。ホームレス状態の人は、健康状態が悪化しやすいため、医療費がかかりやすくなる傾向があります。また、生活保護の受給者が増えると、国の財政を圧迫する可能性があります。
- 人材の損失: ホームレス状態にある人の中には、就労意欲や能力のある人が含まれており、社会にとって貴重な人材が失われている可能性があります。ホームレス状態から脱却し、社会復帰できれば、労働力として社会に貢献することができます。
結論:ホームレスゼロへの道
ホームレスゼロを実現するためには、政府、自治体、民間団体、そして社会全体が協力し、多角的な取り組みを進めていく必要があります。従来の対策に加え、新たな視点からの取り組みや、海外の成功事例を参考にしながら、ホームレス問題の根本的な解決を目指していくことが重要です。
具体的には、以下のような取り組みが重要となります。
- 包括的な支援体制の構築: 関係機関が連携し、医療、福祉、就労など、多岐にわたるニーズに対応できる包括的な支援体制を構築する必要があります。
- 予防対策の強化: ホームレス状態に陥ることを予防するため、生活困窮者への支援や、精神疾患の早期発見・治療などの取り組みが重要です。
- 社会参加の促進: ホームレスの人が社会参加できるよう、就労支援や地域活動への参加促進などの取り組みが求められます。
- 社会的な偏見の解消: ホームレスに対する偏見や差別意識を解消するための啓発活動が必要です。
- 新たな支援モデルの導入: 海外の成功事例を参考に、日本独自の状況に合わせた新たな支援モデルを導入する必要があります。
ホームレス問題は、複雑な要因が絡み合った社会問題であり、一朝一夕に解決できるものではありません。しかし、様々な課題を克服し、多角的な取り組みを進めていくことで、ホームレスゼロを実現することは不可能ではありません。
引用文献
1. 日本の【ホームレス】問題。概要と現状、支援について – FIRST DONATE, 12月 27, 2024にアクセス、 https://firstdonate.jp/homelessness-problem/
2. ホームレスの実態に関する全国調査(概数調査)結果について – 厚生労働省, 12月 27, 2024にアクセス、 https://www.mhlw.go.jp/content/12003000/001089861.pdf
3. ホームレスに関わる問題点とは?そこから見える今後の課題とは – Gooddo, 12月 27, 2024にアクセス、 https://gooddo.jp/magazine/poverty/homeless/10445/
4. 日本のホームレス問題と総合的政策の必要性, 12月 27, 2024にアクセス、 https://chukyo-u.repo.nii.ac.jp/record/17627/files/107020100002okamoto-chukyo-u.pdf
5. ホームレス自立支援施策 – 厚生労働省, 12月 27, 2024にアクセス、 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/homeless/index.html
6. www.min-iren.gr.jp, 12月 27, 2024にアクセス、 https://www.min-iren.gr.jp/news-press/shinbun/20110307_14969.html#:~:text=%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%A0%E3%83%AC%E3%82%B9%E8%80%85%E3%81%AE%E7%B2%BE%E7%A5%9E%E7%96%BE%E6%82%A3,%E4%BA%94%E3%83%BB%E4%B8%89%E5%80%8D%E3%81%A7%E3%81%97%E3%81%9F%E3%80%82
7. ホームレスがなかなか口に出せない家族事情 ふとしたことで意外と簡単に壊れて戻らない, 12月 27, 2024にアクセス、 https://toyokeizai.net/articles/-/294822
8. ホームレス状態の人のための支援とは?取り組みや生活保護について知ろう – gooddo(グッドゥ), 12月 27, 2024にアクセス、 https://gooddo.jp/magazine/poverty/homeless/10415/
9. ホームレスを保護するための2つの制度をご紹介! | リライフネット, 12月 27, 2024にアクセス、 https://seikatsuhogoguide.com/column/column-209/
10. ひとりも見捨て ら れない 社会を創造するために。 – 厚生労働省, 12月 27, 2024にアクセス、 https://www.mhlw.go.jp/content/12201000/000656696.pdf
11. 活動内容 – NPO法人ホームレス支援全国ネットワーク, 12月 27, 2024にアクセス、 http://www.homeless-net.org/html/actions.html
12. Homedoor, 12月 27, 2024にアクセス、 https://www.homedoor.org/
13. Official – 活動内容 – NPO法人 自立支援事業所 ベトサダ, 12月 27, 2024にアクセス、 https://npo-bethesda.com/?page_id=1415
14. 食料支援・医療相談・生活相談などの活動をしている東京23区の民間支援団体一覧, 12月 27, 2024にアクセス、 https://bigissue.or.jp/action/guide/tokyo_support/
15. 活動内容 | 認定NPO法人 抱樸(ほうぼく), 12月 27, 2024にアクセス、 https://www.houboku.net/actions/
16. ホームレスの人々への差別や偏見 – 愛媛県教育委員会, 12月 27, 2024にアクセス、 https://ehime-c.esnet.ed.jp/jinken/img/06homeless.pdf
17. ホームレスの労働と健康, 自立支援 の課題, 12月 27, 2024にアクセス、 https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2007/06/pdf/061-074.pdf
18. ホームレス対策をめぐる日本とイギリスの比較 (Ⅰ), 12月 27, 2024にアクセス、 https://www.bristol.ac.uk/poverty/ESRCJSPS/downloads/research/comparitive/9%20Comparison%20-%20Housing/Japanese/Kodama,%20T.%20(2002)%20A%20Comparative%20Study%20of%20Anti-Homeless%20Policy%20in%20Japan%20and%20the%20UK.pdf
19. データ活用でホームレス問題を解決!米ベーカーズフィールド市の取り組み – BIG ISSUE ONLINE, 12月 27, 2024にアクセス、 https://bigissue-online.jp/archives/1079402916.html
20. イギリス・フランス・ドイツのホームレス対策概要, 12月 27, 2024にアクセス、 https://www.npokama.org/kaihou/kaihou13/kaihou13-4.htm
21. 「新宿区ホームレスの自立支援等に関する推進計画」, 12月 27, 2024にアクセス、 https://www.city.shinjuku.lg.jp/content/000041604.pdf
22. ホームレス自立支援対策 – 北九州市, 12月 27, 2024にアクセス、 https://www.city.kitakyushu.lg.jp/contents/924_11315.html
23. 「人権擁護に関する世論調査」の概要, 12月 27, 2024にアクセス、 https://survey.gov-online.go.jp/h29/h29-jinken/gairyaku.pdf
24. 社会課題の現場をメディアはどう伝えていくべきか——cakesのホームレス記事炎上問題から考える | Ridilover Journal(リディラバジャーナル), 12月 27, 2024にアクセス、 https://journal.ridilover.jp/issues/5b2654f3e447
25. 理想主義と現実主義は両立することを教えてくれるカナダの街の話, 12月 27, 2024にアクセス、 https://ftcj.org/archives/10596


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