はじめに
人工知能(AI)は、近年目覚ましい発展を遂げ、様々な分野でその応用が進んでいます。医療分野においても、AIは診断支援、治療法の選択、創薬など、幅広い領域で革新をもたらしつつあります。特に、創薬においてAIは、従来の創薬プロセスを大きく変え、新薬開発の加速、コスト削減、成功率向上に貢献する可能性を秘めています。1
この記事では、AI創薬の現状と課題、そして未来の医療に与える影響について考察していきます。
研究方法
本稿で示す情報は、公開されている学術論文、研究機関のウェブサイト、製薬会社の発表資料などを基に、以下のデータベースやリソースを用いて収集・分析しました。
- OMIM (Online Mendelian Inheritance in Man) 4
- KEGG (Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes) 4
- GEO (Gene Expression Omnibus) 4
AI創薬とは
AI創薬とは、AI技術を駆使して医薬品の研究開発プロセスを効率化・高速化するアプローチです。具体的には、機械学習、深層学習などのAI技術を用いて、膨大な量のデータ(遺伝子情報、タンパク質構造、薬物分子情報、臨床試験データなど)を解析し、新薬候補化合物の探索、薬物標的の特定、薬物動態予測、副作用予測などを行います。4
従来の創薬プロセスは、膨大な時間と費用を要し、成功率も低いという課題がありました。AI創薬は、これらの課題を克服し、より効率的かつ効果的な創薬を実現する可能性を秘めていると期待されています。AI創薬は、創薬の各段階で、創薬をサポートします。5
AI創薬における主なAI技術
AI創薬では、主に以下の様なAI技術が活用されています。4
- 機械学習: コンピュータが大量のデータからパターンや規則性を自動的に学習し、未知のデータに対する予測や分類を行う技術です。創薬においては、例えば、過去の薬物データから、ある化合物が薬効を示す可能性を予測したり、薬物標的となるタンパク質を特定したりする際に利用されます。
- 深層学習: 人間の脳神経回路を模倣した多層構造のニューラルネットワークを用いた学習技術です。機械学習よりも複雑なパターンを学習することができ、画像認識、自然言語処理、音声認識など、様々な分野で高い性能を発揮しています。創薬においては、例えば、タンパク質の立体構造を予測したり、薬物と標的タンパク質との相互作用をシミュレーションしたりする際に利用されます。
AI創薬の適用分野
AI創薬は、創薬プロセスの様々な段階で適用されています。主な適用分野として、以下が挙げられます。
- 新薬開発: 新規の薬物候補化合物の探索、設計、合成、評価。
- 既存薬の再利用: 既存の薬物から新たな効能や効果を発見し、別の疾患への適用を検討するドラッグリポジショニング。
- 薬物動態予測: 薬物が体内でどのように吸収、分布、代謝、排泄されるかを予測し、薬物の効果や安全性を評価。
- 副作用予測: 薬物の副作用を予測し、より安全な薬物の開発に役立てる。
- バイオマーカー探索: 疾患の診断や治療効果の判定に役立つ指標となる物質を探索。
AI創薬の成功事例
AI創薬は、まだ発展途上の段階ですが、製薬会社とAI技術を持つ企業との連携による、いくつかの成功事例が報告されています。3
| Company | Collaboration | Area of Focus | Outcome |
|---|---|---|---|
| Eli Lilly | Insitro | 代謝性疾患治療薬 | AI創薬を活用し、有望な候補化合物を特定 |
| Pfizer | Ignition AI | 新薬開発の加速 | AI創薬を用いた新薬開発 |
| Johnson & Johnson | 新薬標的の特定、分子設計の最適化、患者リクルートの効率化 | AI創薬を導入 |
また、ロシュのGenentechは、「lab in a loop」と呼ばれる手法を用いてAIモデルのトレーニングを行っています。2 これは、ラボと臨床のデータを用いてAIモデルとアルゴリズムをトレーニングし、その予測をラボで検証することで、新たなデータを生み出し、モデルの精度を向上させるというサイクルを繰り返す手法です。このプロセスは、新しい薬物標的の特定、新薬の設計、がんワクチンに最適なネオアンチゲンの選択などに利用されています。
さらに、AI創薬を用いた医薬品開発は、従来の方法で開発された医薬品と比較して、第I相臨床試験での成功率が高いという報告もあります。AI創薬の成功率は80~90%と推定され、従来の方法による40~65%と比較して、大幅な向上が見られます。1 これらの事例は、AI創薬が新薬開発の効率化、迅速化に貢献する可能性を示唆しています。
AI創薬の課題
AI創薬は大きな可能性を秘めている一方で、克服すべきいくつかの課題も抱えています。1
データに関する課題
AIモデルの学習には、質が高く、多様なデータセットが不可欠ですが、現状では、必要なデータが不足している場合が多く、AIモデルの精度向上を阻む要因となっています。1 特に、抗体配列データは、自然言語のようにインターネット上に膨大な公開データが存在するわけではなく、公開データが限られていることが課題となっています。6 また、AIモデルの精度を高めるためには、質の高いデータが不可欠ですが、生物学の分野では、完璧なデータセットは存在せず、データの質にはばらつきがあります。5 一貫性のないデータや不完全なデータは、モデルの精度と外部妥当性を損なう可能性があります。1
これらの課題を解決するためには、データ収集方法の改善、データ共有の促進、データの質を評価する手法の開発、質の低いデータを排除する技術の開発などが求められます。
倫理的な課題
AIによる判断の責任の所在、患者のプライバシー保護など、倫理的な問題への対応も重要な課題です。1 AI倫理ガイドラインの策定、AI開発者への倫理教育、AIシステムの透明性向上などが求められます。
ブラックボックス問題
深層学習などのAIアルゴリズムは、複雑な計算過程を経て予測を行うため、その判断根拠が人間には理解しにくいというブラックボックス問題が存在します。1 ブラックボックス型のAIは、科学者が予測を解釈することを困難にし、重要な意思決定に対する信頼性と説明責任が問題となります。1
この問題を解決するためには、説明可能なAI(Explainable AI: XAI)の開発や、AIの判断根拠を可視化する技術の開発などが求められます。
人材不足
AI創薬を推進するためには、AI技術と創薬に関する専門知識を兼ね備えた人材が必要ですが、現状では、そのような人材が不足しています。 AI創薬に特化した人材育成プログラムの開発、大学や研究機関におけるAI創薬教育の充実などが求められます。
その他
AI創薬は、AI技術の進歩に依存しているため、AI技術の進歩が停滞すると、AI創薬の発展も停滞する可能性があります。また、規制当局は、創薬のためのAIの使用に適応しつつあるところです。1 AIの検証と患者データの倫理的利用のためのガイドラインとベストプラクティスを確立することは、依然として課題となっています。1
AI創薬が未来の医療に与える影響
AI創薬は、未来の医療に以下の様な影響を与える可能性があります。1
- 医療費の削減: 新薬開発の効率化、迅速化により、医療費の削減が期待されます。3 開発期間の短縮、臨床試験の成功率の向上、研究開発(R&D)プロセス全体におけるリソースのより効率的な使用により、AIヘルスケアへの統合の財政的影響は大幅になる可能性があります。3
- 新薬開発の加速: 従来の創薬プロセスと比較して、新薬開発を大幅に加速することが可能になります。3 AIが操作する加速率により、機械学習アルゴリズムは大量のバイオメディカルデータを迅速に分析できます。3
- 個別化医療の実現: 患者の遺伝子情報や生活習慣などの個別情報に基づいた、より効果的で副作用の少ない医薬品の開発が期待されます。1 AIは、ゲノミクス、プロテオミクス、メタボロミクスのデータを組み合わせて、疾患のメカニズム、標的の特定、創薬に関するさらなる洞察を提供するでしょう。1
- 臨床試験の効率化: AIは、臨床試験のプロトコルを最適化し、アウトカムを予測し、患者を層別化することで、治療から最大の恩恵を受ける可能性が高い患者を含めることができるようになると言われています。1 これにより、臨床試験の迅速化、自動化、エラーの削減につながります。3
- 既存薬の新たな用途の発見: AIは、膨大な臨床および分子データのセットを分析することで、特定の薬物が関連のない疾患に対して予期せぬ有効性を示すことを明らかにし、既存薬の適応拡大に役立つ可能性があります。1
- 医療従事者の役割の変化: AI創薬の普及により、医療従事者の役割は、AIによる診断や治療のサポート、患者とのコミュニケーション、倫理的な問題への対応などへと変化していくと考えられます。
- 社会への影響: AI創薬は、経済、倫理、法律など、社会全体に大きな影響を与える可能性があります。2022年から2029年の間に、市場予測は138億ドルから1641億ドルに増加すると予想されています。3
AI創薬分野においては、様々な分野の専門知識を集約することが重要です。2 AI技術者だけでなく、生物学者、化学者、薬剤師、医師など、様々な分野の専門家が協力することで、AI創薬の potential を最大限に引き出し、より良い医療を実現することができるでしょう。
結論
AI創薬は、創薬プロセスを革新し、未来の医療に大きな影響を与える可能性を秘めています。より安全で効果的な医薬品の開発、医療費の削減、個別化医療の実現など、医療の進歩に大きく貢献していくことが期待されます。
一方で、AI創薬には、データ不足、倫理的な問題、人材不足、ブラックボックス問題など、克服すべき課題も存在します。これらの課題を解決するためには、AI技術の進歩、データの蓄積、倫理的な議論、人材育成など、様々な取り組みが必要となります。
AI創薬は、まだ発展途上の技術ですが、その進歩は目覚ましく、今後の医療に大きな変革をもたらす可能性を秘めています。AI技術と医療分野の連携を強化し、様々な課題を克服していくことで、AI創薬は、人々の健康と well-being に貢献していくことが期待されます。
引用文献
1. Harnessing Artificial Intelligence in Drug Discovery and Development, 2月 11, 2025にアクセス、 https://www.accc-cancer.org/acccbuzz/blog-post-template/accc-buzz/2024/12/20/harnessing-artificial-intelligence-in-drug-discovery-and-development
2. AI and machine learning: revolutionising drug discovery and … – Roche, 2月 11, 2025にアクセス、 https://www.roche.com/stories/ai-revolutionising-drug-discovery-and-transforming-patient-care
3. Accelerating Drug Discovery With AI for More Effective Treatments, 2月 11, 2025にアクセス、 https://www.ajmc.com/view/accelerating-drug-discovery-with-ai-for-more-effective-treatments
4. KAKEN — 研究課題をさがす | 医療ビッグデータから難治性疾患の創 …, 2月 11, 2025にアクセス、 https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-21H04915
5. From Data to Drugs: The Role of Artificial Intelligence in Drug …, 2月 11, 2025にアクセス、 https://wyss.harvard.edu/news/from-data-to-drugs-the-role-of-artificial-intelligence-in-drug-discovery/
6. さくらインターネットとCOGNANOのAI創薬に関する共同研究論文 …, 2月 11, 2025にアクセス、 https://www.sakura.ad.jp/corporate/information/newsreleases/2024/09/30/1968217266/


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