ULギア(ウルトラライトギア)の進化:達人に学ぶ軽量化の極意

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近年、登山やハイキングの世界で注目を集めているULギア(ウルトラライトギア)。従来の登山装備に比べて圧倒的に軽く、疲労軽減や行動範囲の拡大など、多くのメリットをもたらします。本稿では、ULギアの進化の歴史を紐解きながら、上級者たちが実践する軽量化の極意、そしてULギア導入の際の注意点や最新トレンドまで詳しく解説していきます。

ULギアとは?

ULギアとは、「Ultra Light Gear」の略称で、軽量化を追求した登山装備を指します。ベースウェイト(水・食料・燃料などの消耗品を除いたバックパックの重量)10ポンド(約4.5kg)以下を目安とする定義が一般的ですが、さらに軽い装備を目指すハイカーもいます。ULギアの歴史は、1990年代にアメリカのロングトレイルハイカー、レイ・ジャーディン氏が自身の経験に基づいた軽量化理論を提唱したことに始まります。当時は市販品がなく、道具はすべて自作するしかありませんでした。そのため、彼の理論は特殊すぎる方法論と捉えられていました。しかし、約30年前にベースウェイト8.5ポンド(約3.9キロ)でPCT(パシフィック・クレスト・トレイル)を踏破した彼の方法論は、「PCT Hiker Handbook」で紹介され、ロングトレイルを歩くハイカーの一部から熱狂的に支持されました。これが現代ULの起源です。

レイ・ジャーディン氏の革新的な軽量化理論は、アメリカのロングトレイルハイキングから生まれました。長い距離を歩くためには、荷物の重さが疲労に大きく影響するため、彼は装備の軽量化に徹底的にこだわりました。その結果、従来の登山装備では考えられないほどの軽装備で、長距離ハイキングを可能にしたのです。

日本においては、2000年代初頭にULギアの情報がインターネット上で広まり始めました。当時、ULギアに関する情報は限られており、一部の愛好家たちがブログやホームページで情報発信をしていました。その中でも、寺澤英明氏によるブログ『山より道具』は、質の高い情報と熱量の高い発信で、多くのハイカーに影響を与えました。2008年には、土屋智哉氏が日本初のULギア専門店「ハイカーズデポ」をオープン。ULギアの実店舗ができたことで、日本のULハイキングシーンはさらに活性化しました。

近年では、シンプルライフやミニマリズムといったライフスタイルの流行とも相まって、ULギアはより多くの人々に受け入れられるようになってきています。ULギアは、単なる軽量化された登山装備ではなく、自然とより深く繋がるためのツールとして、その価値が見直されていると言えるでしょう。

従来の登山ギアとの違い

ULギアと従来の登山ギアの最大の違いは、その「軽さ」にあります。ULギアは、素材、構造、機能などあらゆる面から軽量化を追求することで、従来の登山ギアに比べて圧倒的な軽さを実現しています。例えば、バックパックでは、フレームや雨蓋を省き、軽量な素材を採用することで、1kgを切るものも少なくありません。テントでは、フロアレスシェルターやシングルウォールテントなど、軽量化を重視したモデルが主流です。従来のテントに比べて、居住性や快適性は劣るものの、圧倒的な軽さとコンパクトさを実現しています。また、最近のトレンドとして、UL(ウルトラライト)な軽量装備が若年層の間で人気を集めています。これは、従来の重装備に比べて軽量かつコンパクトで、快適さと機能性を兼ね備えたギアが注目されているためです。

近年では、大手アウトドアメーカーもULギア市場に参入し、初心者でも使いやすいULバックパックを開発・生産するようになりました。これらのバックパックは、従来の登山用バックパックをベースに、安定性と通気性を備えた背面フレームやパネル構造を採用しつつ、軽量化を実現しています。また、軽量ながら耐久性の高い高機能生地や多彩な収納類など、初心者にも扱いやすい工夫が凝らされています。

ULギアのメリット・デメリット

メリットデメリット
疲労軽減: 従来の登山ギアに比べて体への負担が少なく、疲労を軽減できます。長時間の歩行や急登でも、体力を温存することができます。耐久性: 軽量化を追求するために、耐久性を犠牲にしているギアもあります。岩場や藪漕ぎなど、厳しい環境では注意が必要です。メッシュポケットなどは特に破損しやすい部分です。
行動範囲の拡大: 軽快な足取りでより長い距離を歩けるようになり、行動範囲が拡大します。日帰り登山でも、より多くの場所を探索することができます。快適性: 軽量化のために、快適性を犠牲にしているギアもあります。例えば、フレームレスのバックパックは、重い荷物を背負うと肩や腰に負担がかかることがあります。
軽快な登山体験: 荷物が軽いことで、より自由で軽快な登山を楽しむことができます。足取りが軽くなり、周りの景色を楽しむ余裕も生まれます。価格: ULギアは、高機能な素材や高度な技術を用いて作られているため、従来の登山ギアに比べて価格が高い傾向があります。
体力に自信がない人でも登山を楽しめる: ULザックは、体力に自信がない人でも登山を楽しみやすくなるという点で、大きなメリットがあります。

安全面への影響

ULギアは、軽量化によって安全性が低下する可能性も孕んでいます。例えば、耐久性の低いギアを使用すると、破損や故障のリスクが高まります。また、防寒着や雨具を軽量化しすぎると、低体温症や遭難のリスクが高まる可能性もあります。そのため、ULギアを導入する際は、自身の体力や登山スタイル、そして想定されるリスクを考慮し、安全性を確保することが重要です。軽量化は重要ですが、安全面や快適性を無視したULギア選びは危険です。

上級者が実践するULギアの軽量化の極意

ULギア上級者は、ギアの素材、構造、多機能性、自作など、様々な工夫を凝らして更なる軽量化を実現しています。

  • ギアの素材: より軽量な素材を選択することで、大幅な軽量化につながります。例えば、DCF(キューベンファイバー)やシルナイロンなどの軽量素材は、ULギアでよく使用されています。DCFは、強度と防水性に優れた素材で、テントやバックパックなどに使用されています。シルナイロンは、軽量で耐久性があり、テントや寝袋などに使用されています。
  • ギアの構造: ギアの構造をシンプルにすることで、軽量化することができます。例えば、バックパックのフレームやテントのポールを省くことで、軽量化につながります。フレームレスのバックパックは、軽量化に大きく貢献しますが、荷物のパッキングや背負い方に工夫が必要となります。
  • 多機能性: 1つのギアで複数の機能を兼ね備えたものを選ぶことで、荷物の量を減らすことができます。例えば、レインウェアと防風ウェアを兼ね備えたものや、クッカーとマグカップを兼ね備えたものなどがあります。クッカーセットの中には、固形燃料でもアルコールストーブでも使える汎用性の高いものがあり、ULギア上級者に人気です。
  • 自作: ギアを自作することで、自分のニーズに合わせた軽量なギアを作ることができます。例えば、アルコールストーブやバックパックなどを自作する上級者もいます。アルコールストーブは、空き缶などを利用して自作することができます。
  • 徹底的な軽量化: 上級者は、ギアのタグを切ったり、本当に必要なものだけを持っていくなど、グラム単位での軽量化を徹底しています。30Lのバックパックにすべての荷物を詰め込むためには、荷物の取捨選択が重要になります。そのため、上級者は、ギアの重量を1g単位で計測し、軽量化の可能性を常に探っています。
  • 水の軽量化: 上級者は、浄水器を活用することで、携行する水の量を減らしています。浄水器があれば、山中の水源から安全な水を確保できるため、重い水を大量に持ち運ぶ必要がなくなります。

軽量化を進める上での注意点

ULギアの軽量化を進める上で、耐久性、快適性、安全性とのバランスを考慮することが重要です。

  • 耐久性: 軽量化を追求するあまり、耐久性を犠牲にしてしまうと、ギアが破損しやすくなり、安全性を損なう可能性があります。特に、テントやバックパックなど、重要なギアは、耐久性を重視して選ぶ必要があります。
  • 快適性: 快適性を犠牲にしてしまうと、疲労が蓄積しやすくなったり、登山を楽しむことができなくなったりする可能性があります。例えば、寝袋やマットは、快適な睡眠を確保するために、ある程度の重量は必要です。
  • 安全性: 安全性を確保するために、必要な装備を削りすぎないように注意する必要があります。例えば、ヘッドランプやファーストエイドキットなどは、必ず携行しましょう。
  • 季節や活動: 夏の登山では、冬に比べて防寒着を減らすことができます。また、テント泊をする場合は、日帰り登山よりも多くの装備が必要になります。このように、季節や活動内容によって、必要なギアは変化します。
  • コストパフォーマンス: 軽量化のために高価なギアを購入する場合は、そのコストパフォーマンスをよく検討する必要があります。例えば、1gあたり数百円のコストをかけて軽量化する必要があるのか、よく考える必要があります。

ULギアの進化における最新トレンド

ULギアは、新素材の開発や3Dプリンターの活用など、常に進化を続けています。

  • 新素材の開発: DCF(キューベンファイバー)やUltraWeave™ などの高強度・軽量素材が開発され、ULギアの軽量化に貢献しています。UltraWeave™は、高強度ポリエチレン繊維とリサイクルポリエステルを組み合わせた、強度と防水性に優れた素材です。
  • 3Dプリンターの活用: 3Dプリンターを用いて、軽量かつ高強度なギアを製作する試みも進められています。3Dプリンターを使えば、複雑な形状のギアを簡単に作ることができ、ULギアのさらなる進化が期待されます。
  • 多機能ギア: 1つで何役もこなせる多機能ギアが人気です。例えば、焚き火台にもなるテーブルや、クッカーにもなるマグカップなどがあります。
  • 快適性の向上: 近年では、軽量性だけでなく、快適性も重視したULギアが増えています。例えば、軽量でありながら保温性に優れたダウンジャケットや、寝心地の良いエアマットなどが開発されています。
  • バイクパッキング: 自転車に荷物を積んで旅をする「バイクパッキング」でも、ULギアが活用されています。軽量なギアは、自転車での移動をより快適にします。

ULギアの情報源

ULギアに関する情報は、書籍、ウェブサイト、ブログ、フォーラムなど、様々な媒体で入手することができます。

  • 書籍: ULギアの専門書や、ULハイキングのノウハウを紹介する書籍が出版されています。初心者向けの入門書から、上級者向けの専門書まで、様々なレベルの書籍があります。
  • ウェブサイト: ハイカーズデポや山と道などのULギア専門店や、メーカーのウェブサイトで情報を得ることができます。これらのウェブサイトでは、ギアのスペックやレビュー、ULハイキングに関する情報などを掲載しています。
  • ブログ: 個人のULハイカーが、自身の経験やギアレビューをブログで発信しています。ブログでは、実際の使用感やULハイキングのノウハウなどを知ることができます。
  • フォーラム: ULギアに関する情報交換や意見交換ができるオンラインフォーラムがあります。フォーラムでは、ULギアの選び方や使い方、ULハイキングの計画などについて、他のULハイカーと意見交換することができます。
  • 海外ブランド: ULギアは、海外ブランドからも多く販売されています。個人輸入や海外通販サイトを利用することで、より多くのULギアを入手することができます。

主要なULギアブランド

ここでは、代表的なULギアブランドとその特徴を紹介します。

ブランド名特徴
山と道日本のULギアブランド。シンプルで機能的なバックパックやアパレルを展開。
Locus Gear日本のULギアブランド。軽量なテントやタープを製造。
Moonlight Gear日本のULギア専門店。様々なブランドのULギアを取り扱っている。
OGAWAND日本のULギアブランド。独自性の高いバックパックを製造。
Hyperlite Mountain GearアメリカのULギアブランド。DCF(キューベンファイバー)製のバックパックやシェルターで知られる。
ZpacksアメリカのULギアブランド。DCF(キューベンファイバー)製のバックパックやテントを製造。
Gossamer GearアメリカのULギアブランド。軽量なバックパックやシェルターを製造。
ZEROGRAM韓国のULギアブランド。軽量性と使いやすさを両立させたギアを開発。ストレスフリーなアウトドア体験を提供することに力を入れている。カーボントレッキングポールや設営・撤収が簡単なテントなどが人気。
If You Have日本のULギアブランド。ミニマルで機能的なアウトドアギアを展開。財布やバックパックなど、軽量でデザイン性の高い製品を製造。
RUNNER日本のULギアブランド。オリジナルのウェアを展開。シティランニングやトレイルランニングなどでの利用はもちろん、デイリーにも着こなせるウェアが豊富。

山と道のULギア

山と道は、日本のULギアブランドとして、多くのハイカーから支持されています。特に、バックパックとアパレルは人気が高く、ULハイキングに欠かせないアイテムとなっています。

  • バックパック: 山と道のバックパックは、シンプルながらも機能性に優れており、ULハイキングに最適です。代表的なモデルとしては、「THREE」や「MINI」などがあります。
  • アパレル: 山と道のアパレルは、独自開発の素材を使用し、軽量性と快適性を両立させています。特徴的な5ポケットパンツは、収納力と動きやすさを兼ね備え、多くのハイカーに愛用されています。
  • 寝具: 山と道は、軽量な寝袋やスリーピングパッドも製造しています。

Locus Gear のULギア

Locus Gearは、日本のULギアブランドとして、高品質なテントやタープを製造しています。軽量化と耐久性を両立させた製品は、ULハイカーから高い評価を得ています。

  • テント: Locus Gearのテントは、軽量でありながら、強度と防水性に優れています。代表的なモデルとしては、「Khufu」や「Hapi」などがあります。
  • タープ: Locus Gearのタープは、様々な形状とサイズがあり、ULハイキングのスタイルに合わせて選ぶことができます。
  • アクセサリー: Locus Gearは、テントやタープのアクセサリーも充実しています。フットプリントやペグ、ガイラインなど、ULハイキングに必要なアイテムを揃えることができます。

Moonlight Gear のULギア

Moonlight Gearは、日本のULギア専門店として、様々なブランドのULギアを取り扱っています。初心者から上級者まで、ULハイキングに必要なギアを揃えることができます。

OGAWAND のULギア

OGAWANDは、日本のULギアブランドとして、独自性の高いバックパックを製造しています。オリジナルのギミックやオプションパーツが豊富で、ULハイカーの個性を表現することができます。

  • バックパック: OGAWANDのバックパックは、軽量化と機能性を追求した、独自性の高いデザインが特徴です。代表的なモデルとしては、「OWN」や「Goraon」などがあります。
  • オプションパーツ: OGAWANDは、バックパックのオプションパーツも豊富に用意しています。ショルダーハーネスやヒップベルトなどを交換することで、自分の体形や好みに合わせてバックパックをカスタマイズすることができます。
  • アクセサリー: OGAWANDは、ULハイキングに役立つアクセサリーも販売しています。スタッフサックやサコッシュなど、軽量で機能的なアイテムが揃っています。

初心者がULギアを導入する際のアドバイス

初心者がULギアを導入する際は、以下の点に注意しましょう。

  • 段階的な軽量化: 最初から全てのギアをULギアにするのではなく、徐々に軽量化していくことをおすすめします。まずは、バックパックやテントなど、重量の大きいギアからULギアに交換していくと良いでしょう。
  • 経験者への相談: ULギアに詳しい経験者や、ULギア専門店に相談することで、自分に合ったギア選びができます。ULギアは、種類が豊富で、それぞれに特徴があります。そのため、経験者に相談することで、自分の登山スタイルや体力に合ったギアを選ぶことができます。
  • レンタルの利用: 高価なULギアを購入する前に、レンタルサービスを利用して試してみるのも良いでしょう。レンタルサービスを利用することで、実際にULギアを使ってみて、自分に合うかどうかを判断することができます。
  • ベースウェイト: ULギアを導入する際は、バックパックの総重量だけでなく、ベースウェイトを意識することが重要です。ベースウェイトを把握することで、より効果的に軽量化を進めることができます。
  • 三種の神器: ULギアの中でも、バックパック、シェルター、寝袋は「三種の神器」と呼ばれ、特に重要なアイテムです。まずは、この3つのギアをULギアに交換することで、ベースウェイトを大幅に減らすことができます。
  • ULハイキングの体験: ULハイキングの楽しさを体験するために、まずは日帰り登山から始めてみましょう。ULギアの軽さを実感することで、ULハイキングの魅力に気づくことができます。
  • 情報収集: ULギアに関する情報は、書籍やウェブサイトなどで積極的に収集しましょう。ULギアの選び方や使い方、ULハイキングのノウハウなどを学ぶことで、より安全で快適なULハイキングを楽しむことができます。
  • 無理のない軽量化: ULギアを導入する際は、無理のない範囲で軽量化を進めることが重要です。快適性や安全性を犠牲にしてまで、軽量化を追求する必要はありません。
  • 調理: 初心者の場合、調理に慣れていないことも多いでしょう。そのため、ULギアを選ぶ際は、使いやすさや汎用性を重視することが大切です。

まとめ

ULギアは、登山をより快適に、そしてより自由に楽しむための有効な手段です。しかし、軽量化を進めるあまり、耐久性や快適性、安全性を損なわないよう注意が必要です。本稿で紹介した情報やアドバイスを参考に、ULギアを導入する際は、自身の体力や登山スタイル、そして想定されるリスクを考慮し、安全性を確保した上で、ULギアのメリットを最大限に活かしましょう。ULギアは、単に荷物を軽くするだけでなく、登山に対する考え方や自然との向き合い方を変える可能性を秘めています。ULギアを通して、より軽快で自由な登山体験を楽しみ、自然と一体となる喜びを味わってみてください。

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