はじめに
世界では年間約13億トンもの食料が廃棄されており 1、これは世界で生産される食料の約3分の1に相当します。食品ロスは、環境問題、食料安全保障、倫理的観点から喫緊の課題となっています。国連食糧農業機関(FAO)は、食品ロスを「人の消費に当てることのできる食料がサプライチェーンの様々な段階で失われ、量が減少すること」と定義し、生産から流通までの間のロスを「食料損耗(Food Loss)」、小売~消費までの間でのロスを「食料廃棄(Food Waste)」と区別しています 2。食品ロス削減はこれらの課題解決に貢献するだけでなく、経済にも大きな影響を与えることが近年注目されています。
本稿では、食品ロス削減と経済の関係性について、既存の研究や国内外の事例を交えながら多角的に考察し、その意外なつながりを明らかにします。
食品ロス削減による経済効果
食品ロス削減は、経済に様々なプラスの効果をもたらします。
- 廃棄コスト削減: 食品ロスを減らすことで、廃棄物処理にかかる費用を削減できます。事業者にとっては、廃棄コストの削減は直接的な利益増加につながります 3。
- 資源の有効活用: 食品ロスは、食料そのものだけでなく、生産、加工、流通にかかった水、エネルギー、労働力などの資源の無駄遣いでもあります 4。食品ロスを削減することで、これらの資源を有効活用できます 5。
- 新規ビジネス創出: 食品ロスを原料とした新たな商品開発や、食品ロス削減を支援するサービスなど、新たなビジネスチャンスが生まれます 6。フードテック企業のOtameshiは、ECショッピングサイトを通じて、賞味期限が近いなどの理由で販売が難しくなった食品を消費者に提供することで、食品ロス削減に貢献しています。
- 雇用創出: 食品ロス削減のための新たな技術開発やサービス提供は、雇用創出にもつながります 7。食品ロス削減に取り組む企業は、新たな雇用を創出し、地域経済の活性化に貢献しています。
- 企業イメージ向上: 食品ロス削減に積極的に取り組む企業は、消費者や投資家から高く評価され、企業イメージ向上につながります 8。
- 環境負荷の軽減: 捨てられた食品を処分する際には、多くの温室効果ガスが発生します。食品ロスを削減することで、二酸化炭素の排出量を抑制し、地球温暖化の防止に貢献できます 9。
- 家計への貢献: 食品ロスを削減することで、消費者は食費を節約することができます。イギリスでは、平均的な家庭で年間700ポンド(約870ドル)以上、アメリカでは約1,800ドル節約できると推定されています 10。
食品ロス削減のための投資による経済効果
食品ロス削減のための投資も、経済効果をもたらします。
- 技術開発: 食品の長期保存技術や、食品ロスを原料とした新製品開発への投資は、新たな産業の創出や経済活性化につながります 3。例えば、食品の鮮度を維持する技術の開発は、食品の貯蔵期間を延長し、食品ロスを削減することができます。
- インフラ整備: 食品リサイクル施設の整備や、食品ロスを効率的に回収・運搬するシステムの構築は、廃棄コスト削減だけでなく、新たな雇用創出にも貢献します 11。
- 教育啓発: 消費者への食品ロス削減に関する教育啓発は、食品ロス削減の意識を高め、行動変容を促すことで、経済全体の効率化につながります 12。
食品ロス削減が関連産業に与える影響
食品ロス削減は、様々な産業に影響を与えます。
| 産業 | 食品ロス削減への影響 |
|---|---|
| 食品製造業 | 製造過程におけるロス削減、包装の工夫、需要予測の精度向上など、様々な取り組みを促し、効率化やコスト削減につながります。 |
| 小売業 | 売れ残り削減のための販売戦略の見直し、値引き販売、フードバンクへの寄付など、食品ロス削減に向けた取り組みが求められます。 |
| 外食産業 | 食べ残し削減のためのメニューの工夫、持ち帰り容器の提供、顧客への啓発活動などを通して、食品ロス削減に取り組むことが重要です。顧客の食べ残しが多いという現状 6 を踏まえ、食べ残しを減らすためのメニューの工夫や、持ち帰り容器の提供などが求められます。 |
食品ロス削減と経済の関係:国内外の事例
国内事例
- セブン&アイ・ホールディングス: グループ全体で食品ロス削減に向けたキャンペーンやイベントを実施し、消費者への啓発活動に取り組んでいます 13。例えば、賞味期限が近い商品を積極的に購入するよう促すキャンペーンを実施することで、消費者の意識改革を促しています。
- イオン株式会社: 全国でフードバンク活動を展開し、店舗で発生する食品ロスを福祉施設などに提供しています 14。
- 大阪府: 食品ロス削減推進月間に合わせて、消費者への啓発キャンペーンを実施し、ライフスタイルに合わせた食品ロス削減のコツを提案しています 15。
海外事例
- フランス: 大規模スーパーに対し、売れ残った食品をフードバンクなどに寄付することを義務付ける法律を制定しました 16。この法律により、年間数千トンもの食品がフードバンクに寄付され、貧困層の食料支援に役立てられています。
- アメリカ: 学校給食で食べ残しを減らすため、シェアテーブルという仕組みを導入しています 17。
- EU: 食品ロス削減に向けた政策を積極的に推進し、各国が連携して取り組みを進めています 16。EUでは、2030年までに食品ロスを半減するという目標を掲げ、様々な政策を導入しています。
食品ロス削減を促進するための経済的なインセンティブや政策
食品ロス削減を促進するためには、経済的なインセンティブや政策が有効です。
- 税制優遇: 食品ロス削減に積極的に取り組む企業に対して、税制優遇措置を設けることで、企業の取り組みを促進できます 18。
- 補助金: 食品リサイクル施設の整備や、食品ロス削減のための技術開発に対して補助金を支給することで、初期投資の負担を軽減し、導入を促進できます 19。
- 罰金: 食品ロスを過剰に排出する企業に対して罰金を科す、といった政策も検討されています 20。
- 食品ロス削減推進法: 食品関連事業者に対し、食品ロス削減の目標設定や取り組みを義務付ける法律を制定することで、食品ロス削減を促進できます 21。
食品ロス削減の間接的な経済効果
食品ロス削減は、直接的な経済効果だけでなく、間接的な経済効果ももたらします。
- 食品価格の抑制: 食品ロス削減によって食品の供給量が増加することで、食品価格の上昇を抑える効果が期待できます 22。
- 食料安全保障の向上: 食品ロス削減は、国内の食料自給率向上に繋がり、食料安全保障の向上に貢献します。
- サプライチェーンの効率化: 食品ロス削減は、サプライチェーン全体における効率化を促進し、物流コストの削減や、食品の品質向上に繋がります 5。
食品ロス削減と経済の関係に関する将来展望や課題
将来展望
- フードテックの活用: AIやIoTなどの技術を活用した食品ロス削減の取り組みが、今後ますます重要になります 23。AIを活用した需要予測システムは、食品の生産量を最適化し、食品ロスを削減することができます。
- サーキュラーエコノミー: 食品ロスを資源として捉え、循環させるサーキュラーエコノミーの考え方が、食品ロス削減と経済成長の両立に貢献すると期待されます 24。食品廃棄物を肥料や飼料に再利用することで、資源の有効活用と環境負荷の低減を両立できます 7。
- データ連携: 食品の生産から消費までのデータ連携を進めることで、需要予測の精度向上や効率的な流通システムの構築が可能となり、食品ロス削減につながります 25。
課題
- 食品ロス削減の費用対効果: 食品ロス削減のための投資は、必ずしも短期的に経済効果が見込めるわけではなく、費用対効果の明確化が課題となります 26。
- 意識改革: 食品ロス削減には、消費者、事業者、行政など、あらゆる主体の意識改革が不可欠です 27。
- データ収集: 食品ロス発生量や発生要因に関する正確なデータ収集が、効果的な対策を講じる上で重要となります 28。
食品ロス削減と経済の関係:新たな視点や意外なつながり
食品ロス削減と経済の関係を考える上で、新たな視点や意外なつながりが見えてきます。
- 食品ロスと貧困: 食品ロス削減は、フードバンクなどを通じて、貧困問題の解決にも貢献できます 25。
- 食品ロスと災害: 災害時の食料不足に備え、食品ロスを削減し、備蓄を増やすことが重要です 29。
- 食品ロスと健康: 食品ロスを減らすことで、食生活の改善や健康増進にもつながります 30。
結論
食品ロス削減は、環境問題、食料安全保障、倫理的観点だけでなく、経済にとっても重要な課題です。食品ロス削減は、廃棄コスト削減、資源の有効活用、新規ビジネス創出など、様々な経済効果をもたらします。
食品ロス削減を促進するためには、経済的なインセンティブや政策、そして消費者、事業者、行政など、あらゆる主体の意識改革が不可欠です。食品ロス削減は、SDGsの目標12「つくる責任 つかう責任」に貢献する取り組みであり 6、持続可能な社会の実現に向けた重要な取り組みです。
食品ロス削減と経済の関係には、貧困問題、災害対策、健康増進など、様々な視点からのつながりがあります。これらの意外なつながりを認識し、フードテックの活用やサーキュラーエコノミーへの移行など、多角的な取り組みを進めることが、持続可能な社会の実現につながると考えられます。
引用文献
1. The Economic Impact of Food Waste | Shapiro, 12月 28, 2024にアクセス、 https://shapiroe.com/blog/economic-impact-of-food-waste-effects/
2. 「食品製造業の食品ロス削減対策に対する調査事業」 報告書 【概要版】, 12月 28, 2024にアクセス、 https://www.maff.go.jp/j/shokusan/recycle/syoku_loss/attach/pdf/161227_8-42.pdf
3. 食品ロスの伝道師として – 農畜産業振興機構, 12月 28, 2024にアクセス、 https://www.alic.go.jp/joho-s/joho07_002711.html
4. 自然・社会・経済にダメージもたらす「食品ロス」問題。 その解決に挑む「フードテック」とは?, 12月 28, 2024にアクセス、 https://www.tokyu-fudosan-hd.co.jp/kankyo/news/10/
5. senshu-u.repo.nii.ac.jp, 12月 28, 2024にアクセス、 https://senshu-u.repo.nii.ac.jp/record/12308/files/1041_0113_07.pdf
6. 食品ロス対策として企業ができることは?事例10選 – SDGsコンパス, 12月 28, 2024にアクセス、 https://sdgs-compass.jp/column/1832
7. サーキュラーが食品ロス削減のカギに!? – ロスゼロ, 12月 28, 2024にアクセス、 https://losszero.jp/blogs/column/col_385
8. 食品ロス対策の先進企業10選!コスト削減と環境貢献を両立 – TRYETING, 12月 28, 2024にアクセス、 https://www.tryeting.jp/column/11819/
9. 食品ロス削減と外食産業のメリット – ロスゼロ, 12月 28, 2024にアクセス、 https://losszero.jp/blogs/column/col_210
10. The Global Benefits of Reducing Food Loss and Waste, and How to Do It, 12月 28, 2024にアクセス、 https://www.wri.org/insights/reducing-food-loss-and-food-waste
11. 食品ロスによる経済損失及び 温室効果ガス排出量に関する 調査業務 調査報告書 – 消費者庁, 12月 28, 2024にアクセス、 https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/information/food_loss/efforts/assets/efforts_240131_0002.pdf
12. 食品ロスを削減するための対策とは?家庭や企業でできる取り組みを解説 – 公明党, 12月 28, 2024にアクセス、 https://www.komei.or.jp/komechan/safety/safety202310-1/
13. 食品ロス削減の取組事例集< – 消費者庁, 12月 28, 2024にアクセス、 https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/information/food_loss/case/assets/case_200319_0002.pdf
14. 食品ロス削減・食品リサイクル等の取り組みに係る 情報開示事例集(日本), 12月 28, 2024にアクセス、 https://www.maff.go.jp/j/shokusan/recycle/syoku_loss/attach/pdf/161227_8-103.pdf
15. 平成29年度地方公共団体における 食品ロス削減の取組事例, 12月 28, 2024にアクセス、 https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/information/food_loss/case/pdf/case_180703_0001.pdf
16. 世界各国の食品ロス対策|ロスゼロブログ – SDGs・フードロスについて学ぼう, 12月 28, 2024にアクセス、 https://losszero.jp/blogs/column/col_045
17. 世界の食品ロス取り組み事例5選|世界の現状や個人でできることも解説 – SDGs CONNECT, 12月 28, 2024にアクセス、 https://sdgs-connect.com/archives/57345
18. 「今後の食品リサイクル制度のあり方について(案)」に対する – パブリックコメント, 12月 28, 2024にアクセス、 https://public-comment.e-gov.go.jp/pcm/download?seqNo=0000284243
19. 3R促進のためのポイント制度等経済 的インセンティブ付けに関する検討会 報告(最終取りまとめ)について – 環境省, 12月 28, 2024にアクセス、 https://www.env.go.jp/recycle/circul/area_cases/100312/mat-b.pdf
20. www.env.go.jp, 12月 28, 2024にアクセス、 https://www.env.go.jp/policy/keizai_portal/F_research/report02_4.pdf
21. 食品ロスの削減の推進に関する法律 – 消費者庁, 12月 28, 2024にアクセス、 https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/information/food_loss/promote/
22. www.jri.co.jp, 12月 28, 2024にアクセス、 https://www.jri.co.jp/file/report/researchfocus/pdf/13302.pdf
23. 食品ロス削減でインフレの悪影響軽減を ―削減余地は世帯あたり5.6 万円、経済全体で4.7 兆円, 12月 28, 2024にアクセス、 https://www.jri.co.jp/page.jsp?id=102363
24. 豊かな食の未来への第一歩は、フードロスの削減 | 世界経済フォーラム, 12月 28, 2024にアクセス、 https://jp.weforum.org/stories/2023/01/jp-reducing-food-loss-for-sustainable-future-davos-2023/
25. 食品ロス削減の現状と新たな展開 – 国民生活センター, 12月 28, 2024にアクセス、 https://www.kokusen.go.jp/wko/pdf/wko-202410_01.pdf
26. 日本の食品ロスの割合は?課題解決につながる「食べごろの把握」 – サトー, 12月 28, 2024にアクセス、 https://www.sato.co.jp/market/column/95/
27. 食品ロスと経済・環境 – NPO法人日本もったいない食品センター, 12月 28, 2024にアクセス、 https://www.mottainai-shokuhin-center.org/economy/
28. 食品ロス削減関係参考資料 – 消費者庁, 12月 28, 2024にアクセス、 https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/information/food_loss/efforts/assets/consumer_education_cms201_20240621_0004.pdf
29. 食品ロス削減に向けた取組について(消費者庁), 12月 28, 2024にアクセス、 https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/information/food_loss/efforts
30. 【解説記事】日本の食品ロスは家庭からも多い!解決が急がれる理由|Stories – 協和キリン, 12月 28, 2024にアクセス、 https://www.kyowakirin.co.jp/stories/20221129-01/index.html


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