近年、深刻化している海洋プラスチック問題。海に流出したプラスチックごみは、海洋生物や生態系に深刻な影響を与えるだけでなく、巡り巡って私たちの健康をも脅かしています。海洋汚染の92%はプラスチックごみが原因であるという報告もあり 1、もはや「プラスチックの海」と比喩されるほど深刻化しているこの問題は、地球規模で対策が急務となっています。
本稿では、海洋プラスチック問題の実態、影響、そして解決に向けた取り組みについて、最新の研究成果や専門家の見解を交えながら詳しく解説していきます。
「プラスチックの海」とは? ~その現状を具体的に~
「プラスチックの海」とは、文字通り、プラスチックごみで覆われた海を指す言葉です。 2
私たちの生活に欠かせないプラスチックは、様々な用途に利用できる便利な素材ですが、自然界で分解されないという側面も持ち合わせています。 3 そのため、一度海に流出したプラスチックごみは、長期間にわたって海を漂い続け、海洋環境に深刻な影響を与えます。
国連環境計画(UNEP)の報告によると、毎年1,900万トンから2,300万トンのプラスチックが水界生態系に流出しており、その数は銀河系の星の数よりも多いとされています。 4 2050年には海洋中のプラスチックの量が魚の量を上回るとも予測されており 5、早急な対策が求められています。
プラスチックによる海洋汚染の種類と、それぞれの影響
プラスチックによる海洋汚染は、多岐に渡ります。ここでは、その種類とそれぞれの影響について詳しく見ていきましょう。
| 汚染の種類 | 説明 | 影響 |
|---|---|---|
| マイクロプラスチック | 5mm以下の微細なプラスチック片。一次マイクロプラスチック(製造時に既に微細なプラスチック)と二次マイクロプラスチック(大きなプラスチックが破砕されてできたもの)に分けられる。 | 海洋生物が誤飲・摂食し、消化器官を損傷したり、成長を阻害したりする。有害物質を吸着しやすく、食物連鎖を通じて人体にも影響を及ぼす可能性がある。 1 |
| 大型プラスチックごみ | ペットボトル、漁網、レジ袋など、目に見えるサイズのプラスチックごみ。 | 海洋生物が誤飲したり、絡まったりして窒息死したり、怪我をしたりする。海岸の景観を損ねたり、観光業に悪影響を及ぼしたりする。 1 |
| 船舶からの排出 | 油や廃棄物など。 | 海洋汚染を引き起こし、海洋生物の生息環境を破壊する。 9 |
| 有害液体物質 | 薬品や化学物質など | 海洋生物の体内に入り込み、健康被害を引き起こす。 9 |
海洋プラスチック汚染が、海洋生物や生態系に与える影響
海洋プラスチック汚染は、様々な形で海洋生物の生存を脅かしています。
- 誤飲・摂食: 海鳥やウミガメ、魚類など、多くの海洋生物がプラスチックごみを誤飲・摂食しています。 10 これは、消化器官の損傷や栄養不足を引き起こし、最悪の場合、死に至ることもあります。
- 絡まり: 海洋生物が漁網やプラスチック製の紐などに絡まり、身動きが取れなくなったり、怪我をしたりするケースも少なくありません。 1
- 生息地の破壊: プラスチックごみが海底に堆積することで、サンゴ礁や海藻などの海洋生物の生息地が破壊され、生態系への悪影響が生じます。
深刻なのは、これらの影響が食物連鎖を通じて生態系全体に波及していく可能性があることです。 8 小さな生物がマイクロプラスチックを摂取し、それをより大きな生物が食べることで、プラスチックは食物連鎖の頂点にまで達する可能性があります。
海洋プラスチック汚染が、人間の健康に与える影響
海洋生物への影響だけでなく、海洋プラスチック汚染は、私たちの健康にも影響を及ぼす可能性があります。
マイクロプラスチックは、魚介類などを介して人間の体内に入り込み、蓄積される可能性があります。 11 年間平均で5,800個以上のマイクロプラスチックを摂取している可能性もあるとされています。 8 その影響はまだ十分に解明されていませんが、発がん性や内分泌かく乱作用などが懸念されています。 7
また、プラスチックに含まれる有害物質が溶け出し、魚介類などを汚染することも懸念されています。 8 汚染された魚介類を摂取することで、人体への悪影響も考えられます。
海洋プラスチック汚染の解決に向けた、国際的な取り組みや、日本の取り組み
海洋プラスチック汚染は、国境を越えた地球規模の課題であり、国際的な協力が不可欠です。
国際的な取り組み
- プラスチック条約の策定: 2022年3月、国連環境総会において、プラスチック汚染に関する法的拘束力のある国際条約の策定が決定されました。 12 この条約は、プラスチックのライフサイクル全体を通じた包括的な対策を盛り込んだもので、2024年末までの採択を目指しています。条約では、既に環境中に存在するプラスチックへの対処として、投棄された漁網などの漁具による汚染の排除や、清掃活動における優良技術と優良事例のガイドラインの策定などが検討されています。 12
- G20大阪ブルー・オーシャン・ビジョン: 2019年のG20大阪サミットでは、2050年までに海洋プラスチックごみによる新たな汚染をゼロにまで削減することを目指す「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」が共有されました。 14 これは、発生抑制と発生源対策を主眼としたもので、陸域における発生抑制と水域への流出抑制の取り組みを連携して推進していくことを目指しています。
日本の取り組み
- プラスチック資源循環戦略: 2019年5月、日本政府は「プラスチック資源循環戦略」を策定しました。 15 この戦略では、2030年までに使い捨てプラスチックを25%削減、プラスチックの再生利用率を60%に引き上げるなどの目標を掲げています。
- 海洋プラスチックごみ対策アクションプラン: 同時に、「海洋プラスチックごみ対策アクションプラン」も策定され、発生抑制、回収・処理、国際協力などの具体的な対策を推進しています。 15 具体的には、マイクロプラスチック流出抑制対策(2020年までにスクラブ製品のマイクロビーズ削減徹底等)や代替イノベーションの推進などが含まれます。 16
- レジ袋の有料化: 2020年7月からは、全国の小売店でレジ袋の有料化が義務付けられました。 10 これは、プラスチックごみの削減に向けた重要な取り組みの一つです。
- 企業やNGOとの連携: 海洋プラスチック問題の解決には、企業やNGO、市民などの多様な主体の連携が不可欠です。 10 環境省は、「プラスチック・スマート」キャンペーンを通じて、ポイ捨て・不法投棄撲滅運動や散乱ごみや海岸漂着物の回収イベント、リデュース・リユース・リサイクルの取組、代替素材(バイオプラスチックや紙)の利用など、企業、自治体、NGOなどの取り組みを支援しています。 10
しかし、日本は年間150万トンものプラスチックごみを「資源」という位置づけで中国を中心にアジア諸国に輸出していました。 18 中国が輸入規制を始めたことで、日本のプラスチックごみの行き場が問題となっています。 18 プラスチックごみの海外輸出は、アジアからの海洋プラスチックごみ流出を加速させるという懸念の声もあります。 18
市民レベルでできる、プラスチック汚染対策
海洋プラスチック問題の解決には、市民一人ひとりの意識改革と行動が重要です。
- プラスチックごみを減らす:
- マイバッグ、マイボトル、マイ箸を持ち歩く。
- 過剰包装を避け、詰め替え商品を選ぶ。
- 使い捨てプラスチックの使用を控え、リユース可能な製品を選ぶ。
- プラスチックごみを適切に処理する:
- プラスチックごみを分別し、リサイクルに回す。
- ポイ捨てをせず、ゴミ箱に捨てる。
- 海岸や河川敷の清掃活動に参加する。
- 環境問題に関心を持ち、情報収集する:
- 海洋プラスチック問題に関する情報やニュースに目を向け、現状を理解する。
- 環境問題に取り組む企業や団体を支援する。
プラスチックの代替素材の開発状況や、課題
プラスチックごみを削減するためには、プラスチックの代替素材の開発も重要な課題です。
- バイオプラスチック: 植物由来の原料から作られるプラスチック。 18 生分解性を持つものもあるが、価格や性能面で課題が残る。
- 紙・木: 古くから使われている素材。 19 近年では、紙製ストローや木製カトラリーなど、プラスチックの代替として注目されている。
- MAPKA: 紙パウダーとポリオレフィン系樹脂を混ぜ合わせて作られる新素材。 20 軽くて丈夫で、食品容器などに利用されている。
これらの代替素材は、プラスチックごみを削減する上で有効な手段となりますが、普及にはコストや性能、耐久性などの課題を克服する必要があります。 19
専門家や研究機関による、最新の研究成果や見解
海洋プラスチック問題の解決には、科学的な知見に基づいた対策が不可欠です。
- マイクロプラスチックの海洋生態系への影響: 東京大学と日本財団の共同プロジェクトでは、マイクロプラスチックの海洋生態系への影響について研究が進められています。 1 この研究では、マイクロプラスチックが海洋生物の成長や繁殖に与える影響などを調査し、効果的な対策につなげることを目指しています。
- プラスチック代替素材の開発: 多くの研究機関や企業が、環境負荷の少ないプラスチック代替素材の開発に取り組んでいます。 19 例えば、生分解性プラスチックやバイオマスプラスチックなどの研究が進められています。
結論:持続可能な社会に向けて
海洋プラスチック問題は、地球規模で深刻化しており、私たちの生活や健康にも大きな影響を与える可能性があります。
この問題を解決するためには、国際的な協力、政府の政策、企業の取り組みが重要です。しかし、同時に、私たち一人ひとりの行動も不可欠です。 21 プラスチックごみの発生源は、私たちの生活の中にあります。 1 プラスチックの生産、消費、廃棄というシステム全体を見直し、より持続可能な社会を構築していく必要があります。
そのためには、まず、プラスチックごみを減らす努力をすることが重要です。マイバッグやマイボトルの利用、過剰包装の拒否、リユース可能な製品の選択など、日々の生活の中でできることから始めてみましょう。
また、プラスチックごみを適切に処理することも大切です。分別を徹底し、リサイクルに回せるものはきちんとリサイクルに出しましょう。そして、ポイ捨ては絶対にやめましょう。
さらに、環境問題に関心を持ち、情報収集を続けることも重要です。海洋プラスチック問題に関する情報やニュースに目を向け、現状を理解しましょう。そして、環境問題に取り組む企業や団体を支援することもできます。
私たち一人ひとりが、この問題に関心を持ち、持続可能な社会の実現に向けて行動を起こしていくことが重要です。小さな行動の積み重ねが、大きな変化を生み出す力となります。
引用文献
1. 今さら聞けない海洋ごみ問題。私たちにできること| 日本財団ジャーナル, 12月 27, 2024にアクセス、 https://www.nippon-foundation.or.jp/journal/2020/43293/ocean_pollution/
2. greenz.jp, 12月 27, 2024にアクセス、 https://greenz.jp/2020/11/09/plasticocean/#:~:text=%E6%98%A0%E7%94%BB%E3%80%8E%E3%83%97%E3%83%A9%E3%82%B9%E3%83%81%E3%83%83%E3%82%AF%E3%81%AE%E6%B5%B7%EF%BC%88A,%E6%B3%A8%E7%9B%AE%E3%82%92%E9%9B%86%E3%82%81%E3%81%BE%E3%81%97%E3%81%9F%E3%80%82
3. 海洋プラスチック問題とは? | Go Green Together 楽天グループ株式会社, 12月 27, 2024にアクセス、 https://corp.rakuten.co.jp/event/gogreen/sdgs-13/ocean-plastics-pollution/
4. やめよう、プラスチック汚染 – 国連広報センター, 12月 27, 2024にアクセス、 https://www.unic.or.jp/activities/economic_social_development/sustainable_development/beat_plastic_pollution/
5. 海が汚染され、海の生物も人も危ない! マイクロプラスチック汚染問題とは | MIRAI Times|SDGsを伝える記事が満載 – 千葉商科大学, 12月 27, 2024にアクセス、 https://www.cuc.ac.jp/om_miraitimes/column/u0h4tu00000013vf.html
6. プラスチックを取り巻く国内外の状況 – 環境省, 12月 27, 2024にアクセス、 https://www.env.go.jp/council/03recycle/y0312-01/900418574.pdf
8. 企業と個人で取り組むマイクロプラスチック対策 – ロスゼロ, 12月 27, 2024にアクセス、 https://losszero.jp/blogs/column/col_055
9. 海洋汚染の種類は?原因ごとに見てみよう – gooddo(グッドゥ), 12月 27, 2024にアクセス、 https://gooddo.jp/magazine/oceans/marine_pollution/9365/
10. 海洋プラスチック問題に取り組もう!きれいな海と生態系を守る!「プラスチック・スマート」キャンペーン | 政府広報オンライン, 12月 27, 2024にアクセス、 https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201905/1.html
11. マイクロプラスチック 海洋汚染と人体への影響 – ウォータースタンド, 12月 27, 2024にアクセス、 https://waterstand.jp/waterlife/water_environment/waterlife00083.html
12. 海洋プラスチックによる汚染【法的拘束力のある国際ルール:プラスチック条約の策定】, 12月 27, 2024にアクセス、 https://www.af-info.or.jp/blueplanet/action/005.html
13. 海洋プラスチック汚染を始めとするプラスチック汚染対策に関する条約 – 環境省, 12月 27, 2024にアクセス、 https://www.env.go.jp/water/inc.html
14. 令和2年度 プラスチック代替品の普及可能性調査及び プラスチックごみ散乱状況の把握手法等 – 関西広域連合, 12月 27, 2024にアクセス、 https://www.kouiki-kansai.jp/material/files/group/16/report.pdf
15. 海洋プラスチックごみ問題解決に向けた日本企業への提言(1/2) – みずほリサーチ&テクノロジーズ, 12月 27, 2024にアクセス、 https://www.mizuho-rt.co.jp/publication/2020/articles_0059.html
16. 海洋プラスチック問題の解決に向けた 環境省の取組について, 12月 27, 2024にアクセス、 https://www.env.go.jp/content/900543579.pdf
17. プラスチックの海~変えられる未来~|【公式】アトア átoa(神戸), 12月 27, 2024にアクセス、 https://atoa-kobe.jp/study/umigomi/
18. 海洋プラスチック問題について – WWFジャパン, 12月 27, 2024にアクセス、 https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/3776.html
19. 中小企業におけるプラスチック代替素材の開発と普及* – 日本政策金融公庫, 12月 27, 2024にアクセス、 https://www.jfc.go.jp/n/findings/pdf/ronbun2211_01.pdf
20. プラスチックに代わる新素材 | February 2023 | Highlighting Japan, 12月 27, 2024にアクセス、 https://www.gov-online.go.jp/eng/publicity/book/hlj/html/202302/202302_10_jp.html
21. まず知って、広める, 12月 27, 2024にアクセス、 https://act-greenpeace.jp/ocean/goodlife/plastic_free_guide/guide/guide_all.pdf


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